生産者紹介 | 井尻 弘さん

Hiroshi Ijiri

株式会社
生産者連合デコポン
代表取締役井尻 弘さん(取材:2017年10月)

ワタミグループの協力生産者様の中で、最も多くの野菜を供給していただいているのが、株式会社 生産者連合デコポン様です。
代表の井尻さんには、ワタミファーム山武農場開設に深く携わっていただきました。日本の農業を未来あるものに自分がしていくという強い意志と、仕事を楽しむというモットーが、ユーモアあるお話ぶりから垣間見える方でした。

心を奪われる美しいにんじん畑

問題です。なぜ農業が面白くないのか?

お会いして早々に、問いかけられました。

愛媛県のみかん農家で育った井尻さんは、農作業が好きでよくお手伝いをされていたそうです。そんな中、子供ごころに農業に対しての「おかしいゾ」という視点を持っていたそうです。
たとえば、農家の寄り合いでよく聞かれた話は「農家の長男はつまらんのー」というもの。当時は長男が家業を継ぐことがあたりまえ。農家の長男は他にやりたいことがあっても諦めなければなりません。もちろん、好きで農家を継ぐ方もいる反面、「自分のやりたい仕事ができなかったら不幸だろう・・・。」そう思ったそうです。
井尻さんのおばあ様が、昼間は農作業をし、夜は真夜中まで収穫したみかんの選別作業をしていた様子も深く記憶に刻まれていらっしゃいました。少しでも皮に傷があれば、規格外になる。規格外だとジュースの原料にするのですが、極端に安価になってしまいます。また、規格を揃えたみかんを段ボールに納める際も、おしりを揃えて綺麗に敷き詰める必要がありました。市場では「見た目がすべて」だからです。
ちょっとした傷さえも付けないためには、5回撒けば充分なはずの農薬を数十回と撒いて虫に用心しなければなりませんでした。「農薬を使わないことは、怖いこと」とだれもが思い、朝から晩まで必死に農薬をまくことが普通という世界でした。
大人になり、愛媛県で農業指導に携わっていた井尻さんは、「農業をおもしろくしたい」と30歳の誕生日に辞表を提出。「自ら、農業の新しいモデルをつくろう」と新たな船出にいたりました。

問題の答えその1 価格決定権が農家にない

農家が価格決定権を持つためにはどうしたらよいか。そのためには、お客様を直接みつけ、商品に付加価値をつけること。その付加価値こそ、農法にこだわって、農薬をできる限り使わない、それでいて美味しいことによりお客様に納得してもらうことが大事と考えたそうです。

問題の答えその2 限られた人しか農業に携われない

家業を継ぐのは長男という慣習に縛られない、農業のあり方を広めていきたいという、井尻社長の思いや働きかけが、世の中の変化を先取りしていたのだと感じました。(この10年で、農家以外の方が、農業を仕事にする新規就農が増えているそうです。)

問題の答えその3 規格評価がある(これが最大の理由)

先ほどのエピソードでもあったように、「規格評価」があるため農家の方はとても神経を使いたくさんの手間をかければならない現実がありました。見た目に左右されず、農薬も減らすことは、農家だけでなく消費者にもメリットがあるはずという確信を持たれていたそうです。

井尻 弘さん

そんな思いでつくられた「生産者連合デコポン」は、80人の農家さんの集合体で、約100種類の野菜と果物を生産しています。ワタミへも主に、きゅうり、水菜、ほうれん草、ベビーリーフ、小葱、キャベツ、とうもろこし、いよかん、デコポンなどを供給していただいています。

デコポン生産者
太一興陽株式会社
代表取締役石毛 一興さん

堆肥場のお漬物のような匂いは?

コンクリートと鉄筋とビニールの屋根で覆われた、立派な堆肥場。中に入ると、お味噌のような、漬物のようななんとなく懐かしい匂いがしました。
就農されたときに、メロンの栽培をやめて、きゅうりづくりに絞ったという石毛さんは、美味しいきゅうりのために、長年土づくりを試行錯誤されてきました。転機が訪れたのは、コフナ(自然にある微生物で、植物の根の回りにあると有益な微生物)との出会いだったそうです。
菌の販売業者様から教えてもらったり、様々なところへ見学へいったり、どうすれば低コストで良い土をつくれるか試行錯誤の末、元から畑にいる菌が一番よいと気づかれたとのこと。そこに、菌を活性化させるため「ぬか」を入れ、他にも大豆、茶殻、籾殻を混ぜているそうです。「これが、うちのきゅうりの主食になります」とおっしゃっていました。

石毛 一興さん

種子にこだわる

石毛さんのもうひとつのこだわりは、ずばり「種」。常に新種を開発している「埼玉原種育成会」とタイアップされており、埼玉原種育成会の十数名のブリーダーさんが、何百種類の種を育てその中から選別された数種類が、石毛さんの畑に合うのでは?と持ち込まれてきます。
石毛さんが種を選ぶ基準は、収量がある、病気に強い、皮がやわらかく歯ごたえがいい、みずみずしい、色艶がいい、なかご※ができるだけ小さいものと、なみなみならぬこだわりが満載です。
とくに、できる限り農薬を使わないことをモットーにされているため、かっぱん病、うどんこ病に抵抗力がある種子であることが大事だそうです。
※なかご(中子):瓜などの実の内部で種の入った柔らかい部分

種子にこだわる01
種子にこだわる02
「美味しそうな香りでしょ!!」
近くで嗅ぐとお味噌のようないい匂い。

ブルームきゅうり

ブルームという白い粉は、ぶどうにもみられる野菜や果物自身から出てくる物質で、低温や病気から自分を守る役目を持っています。ブルームきゅうりは一般市場ではあまり扱われなくなってきましたが、実は皮が薄くて果肉も柔らかく、ととても美味しいきゅうりなのです。
もぎたてのきゅうりをその場で頂くと、味わいがあり、みずみずしく、皮がやわらかくて、一本いっきに食べてしまいました。

ブルームきゅうり
日本有数のきゅうり生産量!
栽培方法は「つるおろし栽培」。側枝で下へさげて、成長点を上に向けて、まっすぐなきゅうりを育てている。
人にもこだわる

人にもこだわる

おいしいきゅうりを追求する農家のオヤジさんであり、かつ経営者である石毛さんは、従業員を大切に思い、研修生が暮らすアパートを建てたり、「農業は甘くない」ということを理解してもらうために、あえて世間勉強の旅に出したり、お嫁さんの心配をしたりと、厳しくも温情を感じられる農業経営者でした。

人にもこだわる

デコポン生産者加瀬農園園主加瀬 嘉男さん

有機農業暦26年の香取市の加瀬さんの農場にもお邪魔してきました。
ちょうどサツマイモの選別作業をされていた加瀬さんは、開口一番「俺のサツマイモと人参は、全部売り切れる。(選別の末の)B級ランク品でも売り切れるよ」と自信に満ちた表情でおっしゃいました。「これでB級なの?」とお客様に驚かれるそうです。

野菜の味には、作り手の人柄がでる

おいしい野菜の秘訣は、土づくり、畑選び、にあるそうです。「野菜づくりにマニュアルはないんだ、人柄が畑に、そして野菜の味に出るんだよ。バイオリニストが楽器を奏でると、その人柄が音にでるのと同じなんだよ。」とおっしゃいます。実際、息子さんがつくる人参と、加瀬さんがつくる人参では味が違うのだそうです。

加瀬 嘉男さん

良い土には畑の状態を整えてくれる微生物がいる

有機農業において土づくりはとても手間がかかります。加瀬さんは「良い土の条件は、畑の状態を整えてくれる微生物がいること。また、畑には、害虫を食べてくれる虫も大事で、バクテリアの存在もふくめ、そのバランスがとれている畑であること。そこに土を耕す人の人間性もスパイスとなって、野菜の味になって現れる。」とおっしゃっていました。
野菜を高めるに、自分を高めることが大切という境地に至ったそうです。長い時間をかけて土づくり、野菜づくりをされてきた加瀬さんの言葉には重みがありました。

さつまいも選別
加瀬さん人参畑

「今が楽しくてしょうがない!」

お話の中でもっとも印象に残った、加瀬さんの言葉です。おいしい野菜づくりを追求し続けている加瀬さんが発するからこそ、最高にシビれる言葉でした。

畑からその場で引き抜いた成長途中のにんじんを、頂いて帰りました。フライパンでステーキにしたら、とうもろこしのような甘みがあって、とても美味しかったです。
加瀬さんは野菜づくりにおいて「人参は柿の甘さを、大根は梨の甘さを追求している」そうです。

加瀬 嘉男さん
出荷イメージ

井尻社長の農業に対する熱い思いとそれに賛同する、個性的で各々の信念をもつ作り手とが、信頼で繋がっているデコポンさんの底力を感じる取材となりました。